失敗の本質
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
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会社の某先輩社員からのすすめで購入しました。
正直、前半の作戦事例の記述が詳細すぎて難しかったのですが、ちょうどNHKの『坂の上の雲』が再開され、関連する記述も多かったので読み切ることができました。ドラマで演じられている203高地奪取の話やバルチック艦隊を破った日本海海戦の成功体験が、こういう形で後世に影響を与えることになるのかと…。
本書では、現代の企業にもそのまま当てはまる失敗や教訓がたくさん書かれていて、ホントに70年前のこと?と思ったこともしばしば。
戦略の失敗は戦術で補うことはできない
この辺りの記述を読んで、アメリカは当時からアメリカ的だし、日本は当時から日本的だなと思いました。(そして自分のいた会社のことを言われているんじゃないかと…。)日本は現場レベルでの改善は得意とするものの、それが何のために行われているのか、全体像のどの部分に当たるのかの認識が不十分なために成果を上げられないという課題は、今も戦時も変わっていないのが悲しいところです。
戦略の重要性については、日頃自分が仕事に取り組んでいる際も、考えることが多かったです。いくらよい戦術(仕事の進め方)や士官(マネージャー)を抱えていても、根本の戦略が間違っていると骨折り損だよねという体験は何度もしてきたので。
以前読んだ『イシューからはじめよ』という本でも、解法よりも課題の特定に力点を置くべきという似たような主張があったのを思い出しました。
学習棄却ができない組織は、環境の変化に適応できない
- 組織は、主体的にその戦略、組織を環境の変化に適合するように変化させなければならない(自己革新)
- 日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて「学習棄却」ができず自己革新能力を失ってしまった、ということであった
- なぜ日本軍は、組織としての環境適応に失敗したのか。逆説的ではあるが、その原因の一つは、過去の成功への「過剰適応」があげられる。過剰適応は、適応能力を締め出すのである
本書では、"Learn(学習)"と"Unlearn(学習棄却)"という言い方もしていました。日露戦争や太平洋戦争前半で効果的だった奇襲攻撃や艦隊決戦など、これまでうまくやってきた方法を、自ら否定して、それを更新していけるかどうかがカギとなると。「適応しすぎると適応できなくなる」という記述も印象的でした。同じような言葉で、「居心地がよくなったら、そこはあなたの居るべき場所ではない」というものも聞いたことがあります。
自分の場合、前職はじめの3年間はユーザーインタビューなどの定性調査を専門として業務に取り組んできましたが、それだけでは十分な効果を出せないことを認識し、途中からはアクセス解析などの定量調査へのシフトをしてきました。組織の話ではないですが、これも一つの自己革新かなと思っています。
自分や自社の成功体験を否定するのは、非常に辛いことかもしれません。が、こうした日本軍の例を考えることで、その先に何が起こるかイメージしやすくなりました。
追記
関連して、こんな記事を見つけました。
素人は「戦略」を語り、プロは「兵站」を語る
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20101016/216678/
このリンク先で言う「戦略」は、実際は「作戦」レベルの話ですね。そして「兵站・ロジスティクス」が「グランドデザイン」に近いかなと思います。戦略という言葉が人によってイメージが違うのかもしれません。